『紅き咆哮』 太秦の怪人 http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Ink/7778/
「うむ。よく来た。まあそこに座ってくれたまえ」
狭く薄暗い組合長室に通された山村は、田所組合長に促されソファーに腰掛けた。
「君を呼んだのは他でもない。知っての通り、我がJA加祖村は重大な窮地にある。
若年層の相次ぐ流出、村の過疎化、農業後継者の深刻な不足。組合員の中には
数年前ワシが購入を推進したアルゼンチン国債の暴落による損害を原因に
上げている輩もいるが、そんなことは枝葉のことだ」
田所は葉巻のようなものに火をつけ、いらだたしげに煙を吐いた。
「この状況を切り抜けるためには、JA加祖村として全国に注目されるような
目玉を作らなければならん。分かるかね?」
「はあ・・・」
山村はJA加祖村で唯一の20歳代の職員である。同世代の者が次々と
都市部に出て行く中、彼は家業である農業を継ぐため村に残ったのだ。
「そこでだ、ワシが長年あたため続けていたある野菜を完成させた。
この野菜が若者にウケるかどうか、同世代の君に判断して欲しい」
そう言うと、田所はテーブルの上に段ボール箱をずんと置いた。
「これは・・・トマト?」
「うむ。構想30年、ようやく時代がわしに追いついた。今、満を持して放つ
トマト「紅蓮」だ」
「紅蓮・・・」
山村はそのトマトを手に取ると、じっと見つめた。どこからどう見ても
普通のトマトに見える。いや、どこにでもあるありふれたトマトにしか
見えなかった。
「・・・見たところ、何も変わったところはないようですが・・・」
「フフフ山村君、赤いだろう?
たとえようもなく赤いだろう? 狂おしいほど赤いだろう?」
トマトとは元来赤いものであるし、加えて他のトマトに比べて際立って
赤いわけではなかったのだが、田所の言動が少しずつおかしくなり始めて
いたので、あえて反論することをあきらめただ首を縦に振った。
「クフゥ山村君。見たまえ!
さかさまにしてみれば、まるで真っ赤な
蓮のつぼみのようではないか!
まさに「紅蓮」の名にふさわしい名産品となろう!
これこそ我がJA加祖村・・・いや、加祖村の民全てを救うために降臨した
救世主、メシアである!
おお偉大なるメシア! ハレルヤ!
ハレルーヤ!」
己の言葉に酔いしれているのか、それとも葉巻のようなものの
効果がでているのか、少しずつ壊れ始めた田所を見て、山村はひきつった
笑いを浮かべるほかなかった。
「・・・し、しかし組合長。赤いトマトというだけでは名産品と言うには
少し物足りないかと・・・」
「ムフゥ、青い! 青いぞ山村君!
まるで熟さぬトマトのように青いぞ!
ただ赤いだけでこの田所が世に送り出すと思うてか!
よろしい、食うてみよ!
食うて神の御業に恐れおののくがよい!」
完全にあちらの世界にイッてしまった田所に抗うことができず、山村は
そのトマトを一口かじってみた。
「・・・うん、新鮮でみずみずしい食感ですね。そしてこのさわやかな
酸味と、栗をイガごと飲み込んだような口内と喉を突き刺すような激しい刺激・・・
グホアアアッ!!??」
「そうだ山村君!
世は近年まれに見る激辛ブーム!
遺伝子操作を用い
生成された超激辛トマト「紅蓮」!
その辛さは暴君ハバネロの比ではないぞ!
これこそ神の遣わされた救世主!
山村君! これは売れるぞ山村君!
堀江社長など目ではないぞ山村君!」
------------------------------------------
・・・何と言いますか、まあ・・・
普通の話も思いついていますんでまたアップしときます。
『炎にまつわる昔話)』 太秦の怪人
http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Ink/7778/
…おうおう、これは若様。このような夜更けにいかがなされました?
明日も早くから大君様からお教えを受けるのでしょう?
早く横になられませ。
…婆は何故起きているのか、ですと?
婆はこのかまどの番をせねば
なりませぬでな。火が絶えないようにじっとかまどを見ておるので
ございますよ。
…退屈ではありませぬ。ほれ、のぞいてごらんなされ。ああ、あまり
近づいてはいけませぬぞ。火傷しますでな。ほれ、ちろちろと炎が
踊ってございましょう。一時として同じ姿でおりませぬ。いろいろな姿に
変わりながら、ずっと燃えておるのでございますよ。
…なぜ火は同じ姿でいないのか、ですと。若様はなかなかに面白い
問いをなされますな。お教えしてもよろしゅうございますが、先に
お約束してくだされ。このお話を聞いたら、床についてくださる、と。
…若様はほんに良い子じゃ。では、そこにお座りなされ。
そもそも、火は昔はこのようにゆらゆらとしたものではございませんでした…
昔々、この婆が生まれるよりずうっと昔、火は今とは違ったものでございました。
ゆらゆらとゆらめかず、枯れ木をくべても燃え広がらず、生きたものが
触れても火傷しない。何より、一度燃え始めると風が吹こうが水をかけようが
一年は消えることがございませんでした。ですが煮炊きもできますし、
明かりとして使うことも出来る不思議なものでございました。
そのかわり…今では火打ち石を使って誰でも火を起こせますし、
いかづちが降れば木々が燃えるということもございますが、この頃は
そのようなことでは火を起こすことはできませんでした。
…人々はどのように火を手に入れていたのか、ですと?
ここからずうっと北に、焔の宮という社がございましてな。そこでのみ
手に入れることが出来ました。毎年、三月の一日に宮の巫女が焔の神より
大きな火の塊を授かり、人々の求めに応じて分け与えておったのでございます。
人々はその一年使うだけの火を与えられ、各々家に持ち帰ったので
ございますじゃ。
ある年のこと、宮の巫女と村の若者が恋仲に落ちましてな。巫女は
逢瀬のごとに若者に焔の宮のことを語ったのでございます。
神よりさずかる火は、本当であればもっと猛々しいもの。全てのものを
燃やし尽くしてしまう荒ぶる炎であるが、初代の巫女が扱いやすい
燃え広がらぬ火にしてしまったこと。年に一度、三月の一日だけ
神の国へ入ることが許され、焔の神の許しを得て火を持ち出すことが
できること。人は分相応の火しか使うことを許されておらぬこと。
若者は夜毎その話に飽きることなく聞き入っておったそうにございます。
この時代、焔の宮から西に少しいったところに大きな国がございまして、
ある時この国の大君が焔の宮の話を聞きつけました。大君は便利な
火を独り占めしたくなり、焔の宮の巫女に自分の妻になれと迫りました。
巫女がかたくなに拒むと、その年の三月一日、大君は軍勢を出し焔の宮に
迫りました。
右手に戦槍、左手に火の塊を携え夜道を進んでくる兵士の隊列を見た若者は、
巫女にこう言いました。
「この村には兵士を止める術は無い。巫女よ、火はもともとは
荒々しいものであると言うたな。幸いなるかな今日は三月一日、
焔の神より、猛々しい火をもろうてくれ。火をもて兵を止めようぞ」
若者の言葉に、巫女は言葉を失いました。それはならぬ、人は分を超えた
火は使こうてはならぬと拒みましたが、若者の必死の願いに折れ、
しぶしぶ若者を伴い焔の神のいる神の国へと向かったのでございます。
神の国の中でも、ひときわ赤く輝く仙山に焔の神はおわします。
いつもであれば巫女唯一人立ち入ることを許された仙山でございましたが、
焔の神は若者をじっとねめつけただけで巫女を責めもせず、巫女にただ一言
「欲するか」とおたずねになられました。巫女が「欲する」と答えれば
焔の神より火の塊が授けられるのでございますが、巫女は押し黙ったまま、
うつむいておりました。その様に焦れたのでございましょうか、
若者は思わず「猛き火を」と焔の神に答えてしまいました。
その言葉を聞いた焔の神はひときわ大きな火の塊をずうん、と巫女の前に
差し出し、再び「欲するか」とおたずねになられました。
若者が「応」と答えようとした時でした。巫女はすっと頭を上げると、
若者のほうに振り返りました。その顔には若者を思う笑みと、何か意を
決したかのような悲壮なまなざしと、頬を伝う涙がございました。
そして、さっと身を翻し火の塊の中に飛び込んだのでございます。
その瞬間、どぉんという大きな音と共に火の塊がはじけ飛び、若者は
気を失ってしまいました。
夢うつつの中、遠くのほうで焔の神の声が聞こえてきました。
「かつて巫女は猛き炎に身を捧げ、静かなる火を欲した。
今また巫女が炎に身を捧げ、猛き紅蓮の炎となる。燃え移ろう、燃え広がろう。
炎を御する者はもう現れぬだろう。ゆえに、森羅万象に潜ませよう。
汝が欲すれば得られよう。汝が欲するゆえ、我は与える…」
若者が目を覚ますと、焔の宮の社はごうごうと音を立てて燃えておりました。
決して燃え広がらないはずの火が、社の柱や梁を伝って燃え広がっておりました。
異変はそれだけではございませんでした。家々のかまどの火が柱に、梁に燃え移り
ごうごうと燃え盛っておりました。明かりとして火を持っていた兵士たちの
体にも炎が伝わり、火に包まれた兵士たちは火を振り払おうとしたり、
逃げ惑っておりました。
炎は山野に広がり三日三晩燃え続けましたが、四日目の朝に雨が降り始めると、
さあっ、と消えたそうにございます。
…こうして、火は今の姿になったそうですじゃ。火が簡単に手に入り、
燃え広がり、万物を焼き尽くすようになったのは若者が猛き火を強く欲したため、
ゆらゆらとゆらめくのは火に身を投じた巫女の心に迷いがあったため、
火が水で消えるのは、巫女が流した涙のため、と、婆が子供の頃に
村の婆から聞きましてございます。
上手く使えばほどほどに暖が取れ、また明かりとして重宝するのは
巫女様が人の生業に必要なものであるとお心をくだいておられるから
かもしれませぬ。
そう思いながらこの火を見つめますと、ゆらめく炎を借りて時折
巫女様の色々なお心が見えるような気がいたしますじゃ。
…ほう、若様にはこの炎がまるで花のように見えまするか。焔の宮の巫女様は
花も恥らうほどお美しき方であったそうでございます。そのお姿が、
長き時を経てなお炎の中に息づいておるのかもしれませぬな。
さあ、婆のお話はここまででございまする。大君様のお叱りを受けぬ前に
早く床につきなされ。
若様、巫女様のお心をよぉくお考えなされよ。火をもてあそび、火遊びなぞ
してはなりませぬぞよ。さもなくば…おねしょをしてしまいますからの。
------------------------------------
げっ!
と思うくらい長くなりました。「普通の話」のほうです。
何だかどこかで聞いたような話だな…と思いつつも、とりあえず
ざっと駆け足で書いてみました。
性格なんでしょうか、どうしてもどこかに「笑い」を入れたくなりますね(笑)
熱く楽しませてもらいました。ほかの方も気楽にどうぞ。
|