『空飛ぶくじらの海』海天気予報士物語


1. ぼくらの街の上

ぼくの住む星では、上をみ上げると、
ぽっかりまあるい海が浮いている。
そんな空に海がある街に僕らは住んでいる。

ほかの星に住んでいる人が、その景色をみたら、
きっと、おどろくこともあるかもしれないけど、
これが、ぼくらのいつもみなれた風景だ。

ぼくの名まえは、『澄海ちふ』
澄む海って書いて、『すかい』って読む。
空の名まえににている。そんなぼくの名まえを
ぼくはとってもきにいっている。

ことしの春。ねんがんの『海天気予報士』のしごとについた。
いまのところ、一番の新米。下っぱということだ。

「ちふっ」 「おれのゲイハタもって来い」

いいつけられるのは、いつものこと。

「ゲイハタ」は通称で、本当は
『鯨旗天気予報棒(くじらはたてんきようほうぼう)』というらしい。
海天気予報士にかかせない道具だ。
使い方は各自お任せ。ダウジングのようなもの。

大先輩のワタさん(渡辺さん)は、まっすぐもってダイヤル1にあわし、
旗の流れる方向で、空飛ぶ海の行き先をみる。

お天気おねえさんというのには、すこしトウが立って……イテッ。
訂正します。素敵なお天気お姉さんの、トワさん(十和子さん)は、
チアリーダーのように、ゲイハタをくるりとまわしデジタル2にまわし、
海天気雨がいつくるかみる。

ほかにもデジタルは3.4.5.6.7……とあるんだけど、
新米のぼくには、まだまだはやいそうだ。

ぼくのもっているゲイハタは、新米用の使い古されたもの。
年代もののようで、デジタルは3まで。でも、何故か?ナゾのボタンがあるんだ。

ワタさんの聞くと「そのうち、わかる」というだけだ。
でも、海天気予報官のだれもがとおるみちなんだって。
ぼくには、さっぱりわからない。
いま、ナゾのボタンをおしてもなんにもおこらない。
この新米用ゲイハタの上には白いくじらの人形がちょこんとついていた。
そこにつけたのは、新米のころの、トワさんらしい。

白いくじらが、ぶわっしゃあんと。

空飛ぶ海にとつぜんあらわれる白いくじら。
『しろいくじら』は海天気予報の海天気大雨をもたらす。
いつ、あらわれるのかは、まだ科学でもわからない。
それは、まっしろで、神様みたいだ。
高校のころ、一度だけちかくでみたことがあった。
海水浴のときだった。小さな海に現われたので、海の水が、ぶわっしゃあん。
地上にパラパラとまあるい水の粒がたくさんおちてった。
日の光がそのたくさんの水の粒にぶつかって、
街じゅうにいっぱいの虹をみせていた。

ぼくはあの日から『しろいくじら』がもっと好きになった。
『空飛ぶ海』がもっともっと好きになった。

『空飛ぶくじらの海』が、ぼくは大好きだ。

NEXT

TOP

   
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送